9月はグラナダの守護聖人「苦悩の聖母」と呼ばれる La Virgen de las Angustias ラ・ヴィルヘン・デ・ラス・アングスティアス の祝祭の月で、厳粛な聖体祭儀、献花、聖母を讃える聖行列などが執り行われます。
ローマ・カトリック教会が国教であったスペイン。現在も人口の半分以上はカトリック教徒です。守護聖母の祝祭はグラナダのカトリック教徒たちにって大切な伝統行事の一つ。9月15日は聖母へ献花するために人々が教会を訪れ、9月末の日曜日には宗教行列が行われます。
守護聖母アングスティアス
La Virgen de las Angustias ラ・ヴィルヘン・デ・ラス・アングスティアス
キリスト教徒によるイベリア半島の再征服が1492年に完了したことで、グラナダもキリスト教化されました。16世紀にはイサベル女王から寄贈された聖母画への崇敬が高まっていき、聖母アングスティアスの彫刻像が実現。17世紀にはグラナダの守護聖母として住民に広まり、1887年には教皇レオ13世から正式にグラナダの守護聖母として承認されました。
聖母像の名 アングスティアス は「苦悩、強い不安、恐れ」を意味します。十字架降下後のイエス・キリストの体を抱きかかえ涙を流し、苦しみの瞬間を捉えた聖母マリア。それが「苦悩の聖母」や「悲しみの聖母」と呼ばれる所以です。
聖母アングスティアス教会
街の中心地でありながら、静かな遊歩道に溶け込んだ場所に位置する厳かな教会。内部は外観からは想像できない豪華さに圧倒されます。訪問時間は見学自由で写真撮影もOK。
Basílica de las Angustias
バシリカ・デ・ラス・アングスティアス
Carrera de la Virgen, 42 18005 Granada
Web : Básílica de las Angustias de Granada
訪問時間
月曜日~金曜日 11:30 - 13:00
火曜日、木曜日 18:00 - 19:30
都市バスを利用するなら、ルート 4番、8番、11番、33番。
献花の日
祝祭は聖母への献花に訪れる9月15日から始まります。教会近くの Plaza de Campillo プラサ デ カンピジョ「カンピジョ広場」には花屋が並び、教会前は献花に訪れた人の長い長い列ができます。教会の正面扉には聖母アングスティアスの姿が現れ、献花された花束はファサードに用意された大きな柵に手向けられます。柵はなかなかの高さで作業員はヘルメットを着用。柵が徐々に花一面の壁になっていきます。
消防隊が教会の塔の上まではしご車で上がり、ハートに7本の剣が刺さった「聖母の7つの悲しみ」のシンボルに花束を捧げます。軍のヘリコプターが上空から花びらの雨を降らしたり、音楽や踊りのパフォーマンスも見どころ。2023年の奉納は17:30から22:00まで執り行われました。
綺麗な花一面の壁を撮影する人はたくさんいます。私もその一人。
聖母のスイーツ
9月最後の週末の「カンピジョ広場」では、栗、アセロラ、ザクロなど、秋の味覚の果物が並ぶ露店や、聖母アングスティアスのスイーツ Torta de la Virgen de las Angustias トルタ・デ・ラ・ヴィルヘン・デ・ラス・アングスティアス の店で賑わいます。
聖母のスイーツ、トルタの中身は4種類
- シャムかぼちゃのジャム (Cabello de ángel カベ―ジョ・デ・アンヘル)
- チョコレート
- クリーム
- 中身なし
大、中、1/2、 1/4 など、サイズを選べるお店が殆ど。この時期は露店市場だけでなく、パン屋、スイーツ店、スーパーなどでも販売されています。値段は各お店によりますが、大12 ユーロ、中9ユーロぐらいが相場。今年はオリーブ油が非常にお高いので、例年より少々高めのお店も多いようです。伝統的なのはシャムかぼちゃのジャムのトルタで、アップルパイのような味わいの菓子パンといったところです。
宗教行列 プロセシオン
9月末の日曜日は Procesión プロセシオン と呼ばれる宗教行列が行われます。信者たちがアングスティアス聖母像を担いで街の中心部を行進。人口23万人強のグラナダ人口のうち、例年約15万人の人々がプロセシオンを見るために街頭に集まります。
見学したい場合は、実行日、開始時刻、順路などの詳細を新聞、Webニュース、観光案内所などで要チェック。
プロセシオンの時間帯は交通規制があり、バスやタクシーは迂回やルート変更することになるので、公共交通機関を利用する場合は予めチェックしておくことをおススメします。
プロセシオン道順ルート【2023年】
※変更もあり得ます。ご参考までに
ちなみに2023年は9月24日の日曜日に行われ、タイムスケジュールは、こんな感じ...
16:00 交通規制
17:00 聖行列スタート
18:00 聖母の山車が教会から出発
22:00 教会に戻る
でしたが、実際に聖母が教会から出発したのは18:30、予定よりおして終了。
聖母が登場する直前には、出入口の辺り一帯が振り香炉の白い煙に覆われ、独特の香りに包まれます。群衆は聖母アングスティアスの姿を今か今かとスマホをスタンバイして待ち望み、ついに聖母が教会から出てくると拍手喝采。そのタイミングで花火が打ち上がり、教会の鐘の連打の嵐が鳴り響く中、群衆から ¡Viva la Virgen de las Angustias! ヴィバ・ヴィルヘン・デ・ラス・アングスティアス「万歳!聖母アングスティアス!」といった賛辞の掛け声も飛び交います。辺り一帯は歓喜に溢れ、とても感動的な瞬間です。
パソと呼ばれる聖母像を乗せた山車は約500Kgあり、46人の男性信者たちが担いで街を行進します。重い山車はゆっくりと運ばれ、数メートル歩いては休憩し、再び担ぐと群衆から拍手が送られます。ブラスバンドの音楽とともに進む厳かな行列は数時間におよび、教会に戻ってくるのは、およそ5時間後。聖母が教会へ戻る瞬間も花火と教会の鐘の音が鳴り響きクライマックスを迎えます。
おまけ雑談
スペインでは聖人と同じ名前をつけることが伝統的です。各々の聖人の日に、その聖人と同じ名前の近しい人にお祝いのメッセージを送ったり、プレゼントを贈ったりして祝福する風習があります。そして、父母から子、また祖父祖母から孫へと同じ名前をつけることもスペインの風習の一つなのですが、近年では自分の子供にネガティブな名前をつけたくないと考える人が増え、苦悩を意味する Angustias アングスティアスや痛みを意味する Dolores ドローレス といった女性の名前はすっかり減ってきました。
ここ数年の人気の子供の名前は、男の子はラテン語で「戦士」の意味を持つ Martín マルティン 、ゲルマン語で「知的」の意味を持つ Hugo ウゴ、女の子はラテン語の「光」から Lucía ルシア、 マルティンの女の子版 Martina マルティナ などのようです。
ちなみに11月1日は全ての聖人と殉教者の記念日『諸聖人の日』。スペイン全土が祝日になります。興味のある方は9月でなくても、アングスティアス教会に行けば、守護聖母アングスティアスに会えますので、是非訪れてみてくださいネ。¡Hasta pronto!